Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


 BMP7314.gif 歌声のしずく BMP7314.gif


     13



この島には恒例の、そして一応は厳かなそれである筈の
“聖泉の祭り”という神事の陰で。
企みという種類ではあれ、知恵を奮っての海賊同士の騙し合いとやらが。
人知れずのこっそりと、繰り広げられていたようで。

 「とんだ キツネとタヌキの化かし合いだったよな。」
 「あら失礼ね。
  ある意味、立派な悪党退治じゃないのよ。」

この島で一番大きいという酒場の主人、ヘルメデスという歓楽街の顔役が、

  聖なる宝珠を手に入れたいから、
  宝珠を輝かせる歌い手
  今年の“歌姫”に選ばれてはくれまいか、という

何とも曖昧微妙な条件つきの募集をつのっていたのへと。

  『要は神殿の岩戸を開く仕組みを解けばいいのよね?』

そのまた裏にあった“ホント”まで見抜いた上で、
そっちをこそ任せなさいとの太鼓判を押しての、
祭り当日、この大舞台にまで持ち込んだ“勝負”は、

 『この大岩戸を開けたがっていたのは、あなたの方。
  しかも、こんなややこしいカモフラージュまでしてだなんて、
  一体何が目的なのかしら?』

相手方に別の黒幕がいたことを見抜いて見せれば。何の、

 『今日はいよいよの祭りの当日、
  俺様一人で対処しようなぞとは思ってなかったしな。』

たった一人で掛かっていると思うなと切り返した、
実は海賊だったらしき用心棒のタリオーヌ。
此処に至って勝利宣言のつもりか、
ずっとずっと無表情を通していたものが、
一気にずんと凶悪そうな顔になりの。
手下がいることを仄めかした上で、
悪魔の実の能力者には絶対の威力を持つツール、
海楼石まで繰り出したものの。
手下か仲間か、別動隊がいるだろうことさえ織り込み済みの女性ら、
そちらへも対処の手勢を送り込んでいたのみならず。
土壇場の舞台である“神殿”さえも、

 「これ全部、たった一晩でこさえた偽物、ですか。」

別動隊の無頼の輩によって、攫われかかっていたさん。
そっちの危急はしのげたが、
女性だけで真の黒幕と対峙中というサイドの面々が心配だからと。
大急ぎでの合流を果たした麦ワラの一味の皆様であったりし。

 「……ちょっと待て。俺も一応は控えていたんだがな。」

真犯人相手に直接交渉をしていた側には、
この神殿を作り上げた責任者にして、
その身へも数々の仕掛けを抱えておいでの、
スーパr−ミラクルな船大工こと、
サイボーグ戦士のフランキーが同座してもおり。
それをもって、万が一への対処も万全…としていたはずだのに。
だっていうのに、そんな微妙な言われようって、と。
敏感にも引っ掛かっての
おいおいと、もの申すというお声を出したものの、

 「ロビンが海楼石に搦め捕られても
  出て来なかった人が何を言ってもね。」

 「何だとぉ、
  あのくらいだったら何とでも出来ただろうがよ。」

現に、大事に至らなかったしと。揺るがせようのない現状を持ち出すあたり、

 「…もしかして、フランキーさんたら、
  合理的対処優先の現実主義者なんでしょうか。」

よほど意外だったか、
あれれぇとしゃれこうべの首頚を傾げたブルックだったりし。
それへは、

 「そりゃまあ、船大工である以上、
  大体とかおおよそなんてな曖昧は、
  寸法の上でも理屈の上でも許されねぇってのが
  基本だろうからな。」

それへと沿った性分をしてるんだろうよと、
やはり技巧派、機巧(からくり)の話で馬の合うウソップが
うんうんと感慨深げに頷いて見せたものの、

 「けど。何にでも同情して泣きじゃくるほど、
  物凄く感情豊かで人情派なお人ですけれどもね。」

 「そういうのは別勘定なんだって。」

あ、勘定と感情を掛けましたね、さすがはウソップさん…♪
だぁ〜か〜ら〜…と、
どんどん脱線している人たちはともかくとして。(ありゃ☆)

 「ともかく。」

あああ、繰り返されちゃった……と、筆者までが怯んだほどに、
くっきりと場を立て直した航海士さん。
くびれたウエストへこぶしを当て、
別行動を取っていた顔触れへ、あらためて今日の流れへの確認を取る。

 「入江の社へ乱入した連中は身柄確保出来てるのよね?」

 「いえっさっ。」
 「全員人事不省状態にしてから、
  神官や世話役のおっさんたちに、捕縄渡して任してあんぞ。」

 「…そ、そうなの。」

徹底しておきましたと、親指立ててグッジョブのポーズな顔触れへ。
(ただし、ゾロ含まれず・笑)
加減を知らないことではお互い様レベルだったはずなナミさんも、
おおうと多少は たじろいだようだったが。

 「では。」

口許へゆるく握ったこぶしを当て、こほんと咳払いをしてから。
それで空気をあらためた女丈夫さん。
ちょっぴり擦り切れた敷石や、祠まで連なる石柱も、
奥のほうは雑草を刈り遺してあるという鄙びた風情までも。
何から何までそっくりながら、
まだまだ麓もいいところへ据えられてあった、
完全な偽物の神殿の中。
こちらは一体どういう仕掛けか、
音叉の響きにより輝き出した宝珠を乗せて、
ごうんごうんと動いていた大岩の窪みから。
これだけは本物、あの表彰式のどさくさの中、
ロビンのハナハナの能力を使い、こっそり偽物とすり替えた大切な宝珠を、
手に取ると、どうぞとさんへ手渡した。

 「どれが今年の宝珠になるのかは、
  あなたが…というか、
  歌姫の歌声に反応したのへ、
  神官の皆さんがこれと定めなくっちゃ決まらない代物だったから。」

それに、もしかして此処へうまく誘導出来ないかも知れなかったし。
そこも一応は用心してのこと、
どうしてもこれだけは本物を手にしたかったのごめんなさいと、
申し訳ないということか、
半分ほどしょっぱそうなお顔になって謝ったナミさんだったのだけれど。

 「あ、えっとぉ。」

娘さんらしい手を両方がかりという出し方をし、
恭しく受け取ったさんはといえば、

 「本物を持ってったというのは聞いたんですが。
  あの…それで、なんでヘルメデスのおじさんが引っ繰り返ってて、
  用心棒のタリオーヌが いやに偉そうにしてたんでしょうか。」

 「………☆」

おいおいおいおいと目が点になったナミの傍ら。
あらあらと笑ったのがロビンなら、

 「お前ら、此処へ連れて来たんなら事情くらい話しとかんか。」

つか、事情を知らんとよくも此処へついて来たなぁと、
これまたフランキーが大きに呆れたのも まま無理は無かろう。
彼女もまた大事な禊斎の最中だったのに、
逢って間のないルフィやゾロが、いくら窮地を助けてくれたとはいえ、

 「もしかして、助けるって格好で信頼を得るって
  二段仕込みの罠だったかも知れんのに。」

 「あ………☆////////」

歌舞伎の弁天小僧ですね…って判りにくい例えですか、すいません。
もうちょっと用心深くなきゃいかんと、
選りにも選って、海賊さんのお仲間から言われてちゃあ世話はなく。
今頃気づいて“ありゃまあ”と赤くなってるお嬢さんなのへこそ、
周囲の皆して“あはは”と吹き出してから、

 「まあ、簡単に言うと、」

結構な太刀筋を奮い、
消気の心得もあるという凄腕でありながら、
なのに こんな平和な島の、
一介の用心棒というのがあまりに不自然な存在。
情報収集のついでに訊けば、
一昨年の祭りの後にひょこりと現れ、
まるでヘルメデスの陰のように常に傍らにいて、
それはそれは忠実に役目を果たしている用心棒の彼は、
だが、

 『酒も女も買わねぇし、何が楽しいんだかな。』
 『ここだけの話だが、
  ヘルメデスさんに恩義があるとかどうとかって
  縁があるワケでもないらしくてよ。』
 『そうそう。』

酒場のオーナーのヘルメデス氏は、
ちゃんに言わせりゃあ、胡散臭い歓楽街の顔役だが、
大人たちからすれば、
ままどこの街にでもいるだろう、親分さんというところ。
遊興費への借金(ツケ)の取り立てでは、
ちょっとばかし荒ごともしちゃうよという程度のおっかなさであり、
あれで島の事業などへはかなりの寄付も回す、
結構 気っ風のいい人でもあるそうだが、
今は気持ちよく気絶なさっているので、
触れないまんまで さておいて。(おいおい)

 「大方、自分が太刀使いの海賊だってことを明かした上で、
  島にいる間の後見を努めろと持ってたってとこでしょうね。」

そうと指摘したのがロビンなら、

 「得体の知れない、でもやたら腕の立つ海賊から脅された。
  しかも、用心棒なんて名目もよく考えたもんで、
  目を離した隙に
  海軍の駐留基地あたりへ連絡をされないようにという
  見張りも兼ねていた。」

肩をすくめたのがナミで、

 「あっちのオーナーさんが、
  彼の正体以外は、
  何も知らされてなかったってのも本当でしょうね。」

酒場なんてところは、
酔って気が大きくなった人が暴れたりごねたりもすりゃあ、
借金を作りやすい場所でもあって。
そんなところを賄うからには、
色々な場面場面で肝がすわってたり非情に徹したりする必要もあるから、

 「ちゃんには、悪い奴と思えたのかもしれないけれど、
  彼はまだ良心的なほう。」

相変わらずにぐったりと伸びておいでの
ハンプティダンプティさんを視線で指しつつ、

 「太刀でも向けられたか…ううん、もしかしたら
  仲間をこの島へ殺到させてもいいんだぜとか言われたか。
  脅されて、そのまま2年も従ったほどに、
  むしろ気のいいおじさんの部類でもあったようよ?」

世界には、もっととんでもない人非人や恐ろしい海賊がわんさといる。
海賊だというだけで、鬼でも見るよに身を避けられるのも、
ちょっと傷つくがそっちこそが正解で。
なのに、この島の歌姫さんは、
初対面の海賊を、気のいい良い人とあっさり懐き、
酒場で偉そうに踏ん反り返ってる顔役を、
なんか怪しくていけ好かないと蛇蝎のごとくに嫌っていて。

 “ロビンの言いようじゃないけれど、
  酒場で酌婦になるだけで、
  それが途轍もなくふしだらで
  嫁に行けなくなるような感覚の島ではね。”

彼女のような純粋培養がいても不思議はないのかも…ではあれど。
こういう島が、なんとグランドラインのど真ん中にあろうとは、
そっちもまた奇跡だわねと、驚くしかないナミだったようで。

 「じゃあ、これを社へ持って帰ればいいのね。」

実はもう盗まれてたんだってところは、何とか…あのその。
そうそう、さっきのどさくさに持ち出されていたってことにして、と。
何とか頑張って辻褄合わせをしようという歌姫さんなのへ、

  “…………大丈夫かなぁ。”

う〜んと小首を傾げた面々だったこともまた、
ある意味 隙といや隙だったものか。

 「そうはさせん。」

ひゅんっと疾風のように飛んで来たものがあり。
はっとした面々の中から ぐいという力ずくにて、
その腕を無理から引っ張られているの手元から、

 「……あっ。」

不意を突かれた弾みから、ころりとこぼれ落ちた今年の宝珠。
それをまんまと、二の太刀ならぬ二本目の鞭の先にて、
絶妙に弾き上げての自分のほうへと、
宙を舞わせて手にした者がいて。

 「あんた、まさか…っ。」
 「油断が過ぎるな、やはり暢気な一団だ。」

太刀さばきのみならず、
鞭なぞという特殊な得物も得意だったらしい、
黒ずくめの用心棒…に化けていた海賊のタリオーヌ。
先鋒として飛び込んで来たサンジの蹴撃にあって、
くらくらと意識を飛ばし、倒れ伏していたはずが。
いつの間にか復活しておいでで、しかも。
隠し持っていたらしい鞭という得物を使ってのこと、
音もなく、殺気も孕まずに、
援軍の真ん中に守られていた少女の手から、
まんまと宝珠を奪い取ったる手際の善さよ。

 「返しなさいよっ!」
 「第一、それしかないんじゃあ、やっぱり岩戸は開かねぇぞ?」

待てと追いかけかかった面々が半分。
サンジとそれから、ブルックやチョッパー、ウソップは、
こちらも大事な鍵であるをこそ守ろうと、
強靭な陣を敷くかのように立ち塞がって万全を期したものの。

 「残念だったな。もはやそんなじゃじゃ馬さんは要らぬ。」

焦るどころか、鼻で微笑ったタリオーヌの手には、
先程、ロビンがこちらの岩戸を叩いて鳴らして見せた
四つ又の音叉が握られていて。

 「…………あ。」
 「え?え? あ、でも。」

歌姫の声と同じ波長を出す音叉。
確かにそれを奪われたのでは、
今年の宝珠を輝かせた声の持ち主、
さんを攫う必要はなくなる…のかもしれないが。

 「でも、今さっき岩戸が動いたのは、
  そっちにいるお兄さんが
  こっそりと そういう装置を働かせたからじゃあ?」

だってこの舞台、この神殿は彼の手になる作品だ。
本物の宝珠による奇跡を再現させずとも、
そういう手立てで彼らを丸め込むことだって出来ようにと、
歌姫さんがキョトンとしたのだが、

 「それがね。」
 「さっきもチラッとこぼしたでしょうが。」

ロビンのおっとりした解説じゃあ敵に逃げられちゃうと思ったか、
ナミが話の先を引ったくる。
万が一、こっちの偽の神殿へ誘導出来なかった場合もあり得ると用心し。
だからこそ、本物の宝珠を掠め取ってた彼女らであり。

 「あなたの声を分析出来た証明に、
  音叉で宝珠を光らせることが出来ると、見せる必要もあったしね。」

相手は海賊。
しかも、2年越しで機会を待ってたほど執念深い。
だがだが、さすがに3年目まで待つかどうか。
ちょっとしたことから破綻を帰してのこと、
もういいと破れかぶれになられては何にもならぬから。
嘘ばかりで固めるのではなく、
ところどころに真実も混ぜる必要があったのと、

 「ここの神秘を穢すつもりじゃないけれど、
  あの音叉が放つ音でも宝珠が光るという理屈は本当なの。」

だから、音叉と宝珠を持ってかれると、あなたを抱えて逃げられるのと同じこと、
とってもやばいのだと、付け足しかかったナミだったが、

 「……………そうはさせないわっ。」

  どんな用向きがあって 開けたいかは知らないけれど。
  ただでさえ神聖な泉なのよっ、
  そこへまつわる神殿の岩戸、
  あんたみたいな汚らわしいのが降りてくなんて許さないっ!

そうと言いたいらしい憤怒のオーラが、
立ちのぼって見えたほど、
それはそれはお怒り心頭らしきさん。
すうと深々、大きく息を吸い込んでから、
姿勢を正して 手はお腹。
そうやってきっぱりと構えてからのおもむろに、
彼女の口から紡ぎ出されたものはといえば、

  ―― 暁の星を待ち、望月の揺り籠が揺れる
     小鳥は巣に戻り、潮騒は子守歌を紡ぐ

歌詞はさっき聖なる泉のステージで聞いた“聖なるお歌”と同じだったが、
場所が違うせいか、それとも歌い手の気持ちの込めようが変わったからか、

 「凄げぇなー。力むと攻撃力が増すのか。」
 「攻撃力って…。」

貴様らには もう用はないとばかり、駆け出そうと仕掛かったタリオーヌの手元、
ぎゅうと握っていた宝珠がたちまち反応して見せただけじゃあない。

 「な…っ!!」

宝珠からあふれ出した光は、ぐんと弾みをつけてのいや増して、
握っている彼の手を透かし、
肉の下、骨格を浮かび上がらせたほどの凄まじさ。
それを指して、

 「あ〜あ、
  それってもしかして人体の中へと攻性の高い、
  特殊な波長の光かもしれないぞ?」

まずは蹴撃の貴公子様が、
紙巻きたばこへ火を点けつつ、どこか投げやりな言い方をし、

 「あ、もしかして あるふぁー波か?」
 「そうそう。
  窯タイプのオーブンよりも早く深く、
  肉へ熱を染み込ませる作用があるとかで。
  火も使わねぇのに、
  あっと言う間に中までウェルダンって波長でな。」

発明ものなら任せろのウソップが付け足した声が届いたか、
ただでさえ白くて激しい段階の光を放っている宝珠。
心なしか手のひらが熱くなったような気でもしたのだろ、

 「…っ、うわぁあぁっっ!」

得体の知れないものほど恐ろしいものはなく。
もはや手の甲さえ透かすほどの光を出す石だというのへ怯えたか、
ああまで強かそうだった、練達の用心棒殿。
形ある光がその手を貫き通しているとでも誤解したかのように、
悲鳴とともに宝珠を投げ捨てており。

 「わっ、たっ、とっ!」

ガラスの膜が欠けないようにと、
すべり込むようにして受け止めたさんなの確認してから、

 「よぉし、観念しなっ!」

ゴムゴムの船長が腕をぐるんぐるんと回し、
緑頭の剣豪が腰の得物へ手を掛けて身構え。
蹴撃のシェフ殿が斜に構えて煙草をくゆらせ…と。
戦闘班の男性陣が、不敵な笑みを浮かべつつ、
黒ずくめの海賊男を、余裕で取り囲んだのは言うまでもなかったのであった。





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 *実はこれこそ書きたかった、歌姫さんの切り札です。
  朗々と歌うことで、攻撃しちゃうなんて、どんなスキルだ。
  そういうDSゲームなかったっけ? 星のカービーとか?おやぁ?
  (最初に 超時空要塞何とかが出て来ない辺り…。)


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